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《熊本公演レポート》玉置浩二 PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2021『THE EURASIAN RENAISSANCE “ОТТЕПЕЛЬ”』

 

【玉置浩二 世界的マエストロと名オーケストラとの見事なハーモニー。神々しくも繊細な歌声に“雪解け”の願いを込めて】

2021年3月8日 熊本公演レポート

2015年「音楽の宿命的出会い」のキャッチコピーとともにスタートした玉置浩二とオーケストラの競演シリーズ「玉置浩二PREMIUM SYMPHONIC CONCERT」。世界的マエストロと名オーケストラを迎え各地で繰り広げられたコンサートは、ポップスの頂点を極めた玉置と管弦楽の融合が新たな音楽の地平を広げ、音楽界にとどまらない大きな旋風を巻き起こした。以来、毎年開催されるごとに大きな反響を巻き起こしてきた本シリーズも、昨年はコロナ禍でやむなく中止となったが、全国のファンは玉置の歌声が届くその時を、希望の灯火を消すことなく待ち続けていた。そんな中、多くのファンが待ち望んだ玉置のステージが今年1月からいよいよ再開、ロシア語で“雪解け”を表す「オーチェペリ」と題され、再び各地で大きな感動を巻き起こしている。

【全身全霊を傾けた魂の歌声に鳴り止まない拍手】

『玉置浩二PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2021 THE EURASIAN RENAISSANCE “ОТТЕПЕЛЬ”』が開催された熊本城ホールは、言葉に尽くしがたい大きな感動に包まれた。
この場所は、2019年に開業したばかりの新しい会場で、玉置が開業記念式典を飾り、未だ熊本地震で傷の癒えぬ人たちのために歌声を届けてくれた特別な場所でもあった。また、17、18年の公演時には、会場で募金を集め、熊本市へ寄付金を贈るなど、常に被災した人々へ寄り添ってきた。

熊本城ホールでのコンサートの幕開けは玉置自らが作曲した「歓喜の歌」から。平和への祈りが込められた壮大なスケールの交響曲が会場を包んでいく。その余韻が漂う中、玉置が登場。マスクを外して歌ったのは、愛し合う二人の深い絆を描いた「ロマン」。あまりにも美しい歌声に観客は思わず息を飲む。時につぶやき、ささやくように、そして一人ひとりに語りかけるように、心を込めて歌い上げていく美しくもせつない歌声に、観客は心を震わせ、涙ぐむ人の姿も。「Sacred Love」、「いつもどこかで」、「キラキラ ニコニコ」と続き、玉置の歌声もどんどん高みへと昇っていく。

さらにメドレー「MR.LONELY~プレゼント~サーチライト」では、歌声に呼応するかのように、観客席の拍手が響き渡る。そして、一部のラストを飾ったのは恋の終わりを歌ったバラード「Friend」。せつなさの余韻を残しつつ、前半のステージは締めくくられた。

20分の休憩を挟み、バッハの「G線上のアリア(管弦楽組曲第3番より)」で二部が始まり、オーケストラの美しい音色が響き渡ると、再び玉置がステージへ。「GOLD」、「行かないで」と丁寧に言葉一つひとつを心に届けようと歌い上げていく玉置の温かさと愛情が心に染みこんでいく。
 そして、安全地帯の名曲メドレー「ワインレッドの心~じれったい~悲しみにさよなら」が披露されると、観客たちの熱気は一気に頂点に。「悲しみにさよなら」では、〈愛を世界中のために〉と歌い上げ、最後はオフマイクで情感を込めた歌声を響かせた。会場中から割れんばかりの拍手が送られ、鳴り止まない拍手に、うなずきながら胸に手を当て、応える玉置。愛おしそうに観客席を見渡す姿がとても印象的で、その光景は愛に溢れていた。

続く「JUNK LAND」、「夏の終りのハーモニー」。〈熊本城ホールの夜を彩るハーモニー〉と歌詞を変え、観客たちの心をしっかりと掴むと、最後はそっとマイクを置いてオフマイクで熱い歌声を響かせた。圧倒的な声量と神々しいほどの表現力で曲が締めくくられると、それまで一音も逃すまいと聴き入っていた観客たちが、まるで波のように一人また一人と立ち上がっていく。自然と湧き上がる衝動と、抑えきれない喜びによるスタンディングオベーション。ステージの玉置と指揮者も肘と肘を合わせてバンプして笑顔で称え合う。感動的で涙が溢れる最高のシーンだった。
アンコールは「田園」。ベートーヴェンの「田園」と混ざり合う見事なアレンジを披露し、〈愛はどこにある。熊本にある〉とシャウトすると観客たちも歓喜。
そしてラストを飾ったのは名曲「メロディー」。絞り出すように全身全霊を傾けた魂の歌声が、会場を包み込み、鳴り止まない拍手の中、この日のステージは惜しまれながら幕を下ろした。

【慈愛に満ちた歌声と音楽で結ばれた愛溢れる光景】

コロナ禍の中、多くの人がそれぞれにさまざまな思いを抱えながら暮らす今。玉置の歌声はいつも以上に「慈愛」に満ちて心に染み渡り、そっと私たちに寄り添い、力を与えてくれた。開演中は感染予防のため、観客も一切声を出さず、手拍子とスタンディングオベーションで、喜びをステージに伝えようとする光景には何度も胸が熱くなった。
―――そこに言葉は無くとも、音楽があれば、こんなにも互いの想いは伝わり、確かなものとして心が繋がっていく。これこそが音楽の醍醐味であり、素晴らしさなのだと、この日の玉置の歌声と観客の光景がそう物語っていた。

今回のコンサートの副題「ОТТЕПЕЛЬ(オーチェベリ)=雪解け」という言葉に込めた玉置の願いは、その素晴らしい歌声によって、混沌とした今を生きる人々の心の氷を溶かしていくようで、温かな春、そして希望を見いだすことの大切さを教えてくれているかのようだった。「冬来たりなば春遠からじ」。帰り道に、そんな言葉が頭に浮かんだ温かな夜だった。

そんな熱気が覚めやらぬ中、今年6月から新たなツアーも決定した。ファンにとってはまだまだ楽しみが続いていく。また、その日を楽しみに待ちたい。

テキスト:村上あやの
撮影:Photographer HIRO

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世界のクラシック音楽の新しい魅力を導く多彩なパフォーマンスを披露します。