REPORT

Robert Glasper Experiment × Tomomi Nishimoto Symphonic Concert

 現代の音楽シーンの最先端を走るグラミー賞アーティスト、ロバート・グラスパーと、 世界の舞台で活躍する指揮者、西本智実の初共演が実現! 

 YouTubeにロバート・グラスパー・エクスペリメントが2014年にオランダのノース・シー・ジャズ・フェスティバルでメトロポール・オーケストラと共演した動画がまるまるアップされていて、僕らはそれをいつでも見ることができる。アレンジャーのヴィンス・メンドーサ率いる世界最高峰のオーケストラがグラスパーの楽曲を鮮やかに彩るこの音源は、時にエレクトロニックな表現をも大胆に投入するエクスペリメントのサウンドが、オーケストラのアンサンブルと完璧に溶け合う様が聴き手を圧倒する。超高速人力ドラムンベースの上をKCベンジャミンのヴォコーダーとエフェクティブなシンセ、そしてグラスパーのエレピがメロウに舞う《Let It Ride》では、楽曲が持っている高揚感を分厚いホーンアンサンブルと流麗なストリングスが更に押し上げながら、アコースティックとエレクトロニクスのテクスチャーが異次元の心地よさをもたらしてくれる。

 ヒップホップやR&B、テクノ、ビートミュージックを通過した今、オーケストラは新たなテクスチャーやグルーヴを生む刺激的な装置として、その魅力を再発見されつつある。前述のメトロポール・オーケストラで言えば、2014年にはUKが生んだ個性的なシンガー・ソングライター、ローラ・マヴーラが彼らを起用した作品を発表し、2015年にはアメリカの音楽シーンを席巻する新世代フュージョン/ファンク集団スナーキー・パピーがメジャーデビューに際し、彼らとの共演を選択している。そういえば、デヴィッド・ボウイが2014年に突如リリースした新曲《Sue (Or In A Season Of Crime) 》は、ジャズとクラシックを横断する世界最高のオーケストラ、マリア・シュナイダー・オーケストラとの共演だった。どの作品も、オーケストラのアンサンブルがただのゴージャスさでも、ノスタルジアでもなく、新たな響きを提供しているのが印象的だ。

指揮者:西本智実

 2015年6月、ロバート・グラスパーは新たな挑戦を日本で行う。日本を代表する指揮者として、2013年から3年連続ヴァチカン国際音楽祭に招聘される等、世界を舞台に活躍中の西本智実と、彼女が芸術監督を務めるイルミナートフィルハーモニーオーケストラとの共演だ。この現代のクラシック音楽界を代表する指揮者の西本智実との共演に際し、「アメリカやヨーロッパでもクラシックのアーティストやオーケストラと共演したことがある。日本のクラシックミュージシャンとも共演したいといつも思っていたので、光栄に思っているよ」と語るグラスパーが、日本屈指の国際的に進出するクラシックオーケストラと共にどんなサウンドを聴かせてくれるのか、興味は尽きない。

 ノース・シー・ジャズ・フェスティバルでのメトロポール・オーケストラとの共演では、オーケストラのアレンジを指揮者のヴィンス・メンドーサと一緒に行っていたが、今回は西本智実と共にどんなアレンジを生み出すのだろうか。「音楽をペインティングに例えるなら、そこには数えきれないくらいたくさんの色が存在する。オーケストラでは、それぞれのプレーヤーがキャンバスに個々の空間が与えられる。その結果、美しい絵が完成するんだ」との発言と併せてグラスパー自身の演奏も普段のトリオやエクスペリメントの時とは違うものになるはずだと答えているだけに、どんなキャンバスを思い描いているのか非常に興味深い。

RobertGlasper

 そして、選曲にも注目が集まる。ブラック・レディオの収録曲を始め、ピアノトリオの楽曲を含め、自身の楽曲を数多く演奏することに加え、「ぜひともJ-Dillaの曲を演奏したいと思っているよ」と語っているが、クラシックのオーケストラがJ-Dillaの楽曲をどう生まれ変わらせるのか、どんな魅力を炙り出すのかには、期待せずにはいられない。

 

 更に今回は目玉としてモーツァルト:ピアノ協奏曲第21番「第二楽章」を演奏することが決定した。作曲家ではヒンデミット、ラヴェル、モーツァルトを、ピアニストでは、モーツァルト、バッハ、ラン・ランが好きだというグラスパーだが、これまでにコンサートの場ではクラシックの曲を演奏したことは一度もない。今回のコンサートを“挑戦”と位置付けているだけに、貴重な一夜となりそうだ。

 グラスパーは最近もケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』の多数の曲に参加し、大きな話題になっている。そんなジャズやヒップホップ、R&Bを自由に行き来し、世界の音楽シーンのエッジに立つグラスパーがクラシックの領域にまで踏み込んでいく今回のコンサートはかなり特別なものになるはずだ。これまでにない“多くの色彩”が加わる未知のグラスパーのサウンドを肌で体感できるこのコンサートを見逃すわけにはいかない。

text:柳楽光隆 協力:Intoxicate
西本智実写真:塩澤秀樹

PROFILE

ロバート・グラスパーRobert Glasper Experiment

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ロバート・グラスパー(Robert Glasper、1978年4月5日 )。アメリカ合衆国 ヒューストン出身のアメリカ人ジャズピアニスト、レコーディングプロデューサー。ジャズピアニストとして、デビュー当時はトリオとしてジャズを主とした曲がメインであった。その後、Kanye WestやCommonをゲストに迎えるなど、ヒップホップやR&Bとジャズを融合させた曲を多く発表するなどミュージシャンとして進化を続け、現代を代表する音楽家としての評価を獲得した。第55回グラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を『ブラック・レディオ』で受賞。同作品では、ジャズとヒップホップを自在に体現し、音楽シーンに旋風を世界中に巻き起こした。そして、彼がリスペクトするヒップホップ/R&Bの豪華ゲストを迎えた同作品は各方面から話題を呼び、強豪アーティストを押さえグラミー受賞の栄冠に輝いた。その衝撃作『ブラック・レディオ』の続編となる作品『ブラック・レディオ2』では、ゲストにはコモン、パトリック・スタンプ(フォール・アウト・ボーイ)、ブランディ、ノラ・ジョーンズ、ジル・スコット、フェイス・エヴァンス、アンソニー・ハミルトン、スヌープ・ドッグ、ルーペ・フィアスコ、エミリー・サンデー、ドゥウェレ、マーシャ・アンブロージアス、レイラ・ハサウェイ、マルコム=ジャマル・ワーナー(俳優)と、前作よりさらに豪華な顔ぶれが揃い、さらなるネクスト・レベルへと進んだ。同アルバムはグラスパー自らのプロデュースによるオリジナル曲を中心に構成され、スティーヴィー・ワンダーの「神の子供たち」もカヴァーしている。尚、この曲は2012年12月にアメリカのコネチカット州のサンディフック小学校で起こった銃乱射事件で20名の児童が死亡したことに対する追悼が込められており、第57回グラミー賞「最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス」部門を受賞している。

オフィシャルサイト http://www.robertglasper.com/

西本智実Tomomi Nishimoto

<!--:ja-->西本智実<!--:--><!--:en-->Tomomi Nishimoto<!--:-->

イルミナート芸術監督。

広州大劇院名誉芸術顧問。岸和田市立浪切ホール芸術ディレクター。大阪音楽大学客員教授。松本歯科大学名誉博士。大阪国際文化大使第1号。平戸名誉大使第1号。
東洋文庫ミュージアム諮問委員。
ロシア国立交響楽団、サンクトペテルブルクミハイロフスキー歌劇場で外国人として初めて指揮者ポストに就き、英国ロイヤルフィル始め各国を代表するオーケストラ、歌劇場より招聘。2010年にはカーネギーホールにてアメリカ響を指揮し高い評価を得て、その活動は世界約30カ国に及ぶ。
平城遷都1300年、高野山開創1200年記念演奏会、ラクイラ音楽ホール落成コンサート、「日ブラジル外交関係樹立120周年」記念コンサート、2015年日韓国交正常化50周年記念コンサート、日中平和友好条約締結40周年記念公演等歴史的な演奏会を指揮。2018年末~2019年始、中国主要7都市招聘8公演にイルミナートフィルハーモニーオーケストラを導き成功させる。
2013年より【ヴァチカン国際音楽祭】に招聘され、2014年にはアーノンクール氏と共に【名誉賞】が最年少授与。国家戦略担当大臣より感謝状など受賞多数。
芸術監督として舞台演出した『音舞台 泉涌寺』(MBS放送)は、ニューヨークのUS国際映像祭TV パフォーミング アーツ部門で銀賞を受賞。ワールド メディアフェスティバル ドキュメンタリー芸術番組部門で銀賞を受賞。
芸術監督として制作する各演目は再演が続いている。
2007年ダボス会議を主催する『世界経済フォーラム』のヤング・グローバルリーダーに選出。2015年と2016年G7サミットの海外向けテレビCMに起用。ハーバード大学ケネディ公共政策大学院"エグゼクティブ教育"にアメリカの3つの財団から奨学金研修派遣され修了。

西本智実公式HP  https://www.tomomi-n.com/

Tomomi Nishimoto is the current Artistic Director/Principal Conductor
of the IlluminArt Philharmonic Orchestra.
She concurrently serves as the Music Partner with the Japan Philharmonic Orchestra,
Music Director and the Principal Conductor of the Royal Chamber Orchestra,
and the Visiting Professor at Osaka College of Music (Nishimoto’s Alma Mater) as of 2014.
She also serves as the very first honorary ambassador
of the city of Hirado in Nagasaki Prefecture
and as the Osaka International Cultural Ambassador for the city of Osaka.

After graduating from the Osaka College of Music with a Bachelor of Music in Composition,
she went abroad to study Opera and Symphony Conducting
at the Saint Petersburg State Conservatory in Russia.
She later becomes the first foreigner to serve as the Principal Guest Conductor
for both the State Symphony Orchestra of Russia (Svetlanov Symphony Orchestra)
and the St. Petersburg Mussorgsky State Academic Opera and Ballet Theatre.
While she continues to expand her European activities
through successful performances with ensembles that include:
British Royal Philharmonic Orchestra, Bruckner Orchestra Linz,
Monte Carlo Philharmonic Orchestra, Hungarian State Opera House, the Prague State Opera,
and the Odessa National Academic Theater of Opera and Ballet.
Nishimoto is making her presence known in the United States as well.
She made her American debut by conducting the American Symphony Orchestra at the Carnegie Hall. From 2011 on, she is regularly invited to the Westchester Philharmonic Orchestra in the United States.
Her activities in Asia include performances in Hong Kong, South Korea, and Taiwan,
along with major orchestras within Japan.

Nishimoto has also been invited to perform at numerous music festivals,
including Split Summer Festival, Dubrovnik Summer Festival, Prague Proms, and Vilnius Music Festival.

Recently, Nishimoto has also been experimenting with new genre of music
by taking in traditional aspects of Japanese cultures.
She has already performed a collaboration of opera and traditional Japanese theatre,
as well as the restoration performance of long lost Min'yō tunes.

Aside from music, Nishimoto is active as a member of the Young Global Leader
at the World Economic Forum held in Davos annually.
In 2012, she completed the Harvard Kennedy School’s Executive Education Program
in public leadership as a fully funded fellow.

In November 2013, Nishimoto lead the IlluminArt Philharmonic at the Vatican Music Festival.
Following on this success, she has plans to unfold her activities in Brazil and in Southeast Asia in 2014.

Nishimoto continues to garner worldwide reputations through her global tours and activities.

Official site http://www.tomomi-n.com/

 

イルミナートフィルハーモニーオーケストラIlluminArt Philharmonic Orchestra

<!--:ja-->イルミナートフィルハーモニーオーケストラ<!--:--><!--:en-->IlluminArt Philharmonic Orchestra<!--:-->

ヴァチカン国際音楽祭名誉パートナーオーケストラ。
芸術監督西本智実のもと、受賞歴を多く持つ国内外のオーケストラ首席経験者などの奏者で結成、国籍・国境を超越する既成概念から抜け出した新しいスタイルのオーケストラ。
2013年アジアのオーケストラとして史上初めてヴァチカンで演奏、2014年より毎年ウィーンフィルと共にメインオーケストラとして招聘されており、【ローマ教皇代理ミサ】はヴァチカン放送より約35ヶ国中継されている。 2018年末~2019年始、中国から招聘され主要7都市8公演を成功させる。
京都南座でのオペラ『蝶々夫人』、『泉涌寺音舞台』《国際テレビ賞:2016年US国際映像祭(娯楽:テレビ・パフォーミングアーツ部門銀賞)及び2016年ワールドメディア・フェスティバル(ドキュメンタリー芸術番組銀賞)》、『高野山開創1200年記念法要演奏会』、『帝国ホテル芸術祭』、『平戸市世界遺産記念公演』、『薬師寺世界遺産公演』、「INNOVATION OPERA『ストゥーパ~新卒塔小町』」など、伝統と革新総合芸術を世界へ発信。【日韓国交正常化50周年記念公演】【ベトナムホーチミン劇場公演】アジア諸国の委嘱作品世界初演等々、アジア文化の新しい融合も発信、幅広い活動をしている。 NHK-FM夏季特別番組「長崎 祈りの音色」では、西本指揮イルミナートの演奏が取り上げられ、平成30年度文化庁芸術祭ラジオドキュメンタリー部門で優秀賞を受賞。テレビやCMにも出演多数。

 イルミナート公式HP  http://illuminartphil.com 
イルミナート公式Twitter   https://twitter.com/IlluminArtPhil

写真:新井秀幸

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世界のクラシック音楽の新しい魅力を導く多彩なパフォーマンスを披露します。