CLASSCAL / INTERVIEW

西本智実
映画「砂の器」公開から40年振りに、
あの「宿命」が蘇る

interview & text:片桐卓也

1974年に公開された松本清張原作の映画「砂の器」(野村芳太郎監督)は、若い作曲家・和賀英良が、その隠された前半生ゆえに殺人を犯すという物語。映画のラスト近く、和賀が自作のピアノ協奏曲「宿命」を演奏しながら、彼の半生が回想されるシーンは上映当時から話題となった。その音楽を書いたのは菅野光亮(かんの・みつあき 1939〜1983)。音楽監督である芥川也寸志の助けを借りながら、この作品を書いたと言われる(映画でのピアノ演奏も担当)。毎日映画コンクール・音楽賞、モスクワ国際映画祭作曲家同盟賞など、音楽関係の賞も数多く受賞した。その組曲「宿命」が40年振りにコンサートで演奏され、CD化された。指揮を手がけたのは西本智実。

「このお話を頂いた時に、ためらうことなくお引き受けしました。即答でした。中学生の頃に『砂の器』のヴィデオを観ました。たぶん親がこの映画について話していたのを、どこかで気に留めていたのでしょうね。原作もすぐに読みました。いつか『宿命』を取り上げてみたいという気持ちはありました」

今年の3月に東京・池袋の東京芸術劇場、6月に大阪シンフォニーホールでその復活コンサートが行われ、東京芸術劇場でのライヴがCDとしてリリースされた。ピアノを担当したのは若き実力派・外山啓介、オーケストラは日本フィルハーモニー交響楽団である。 「特に印象的だったのは、演奏会の後に多くのお客様から、熱狂的とも言える反応を得られたことです。『40年間、これを待っていました!』とおっしゃるお客様もいました。日本全国からこの作品を聴くために駆けつけてくれた方も多かったようです。演奏中も、席から乗り出して音楽に耳を傾ける方が多く、その熱に圧倒される想いでした」 確かに、映画「砂の器」、そしてこの「宿命」の音楽は多くの方の心の中に残る作品だったと言えるだろう。

「音楽と映像がお互いに良い影響を与えあって、忘れられない作品となったのでしょうね。自分でも指揮をしながら、映画の父子が日本の美しく厳しい風景の中を歩いている姿が、目の前に蘇って来ました」

40年を経ても「宿命」の魅力は色あせていなかった。

「映画ではピアノ協奏曲となっていますが、ソロのピアノがドーンとオーケストラの前に存在して、華麗な音楽を聴かせるというような作品ではありません。むしろピアノとオーケストラは一体となって、ひとつの世界を作り出しています。そこで、コンサートではピアノをオーケストラの前に出すのではなく、オーケストラの中に入れるような形(注・CDブックレットの写真を参照のこと)で演奏しました。ピアノの外山さんには、どうしても速く弾きたくなるような箇所もあるでしょうが、出来るだけたっぷりと、ひとつひとつの音を聴かせるように演奏して欲しいとお願いしました。それがうまく行ったと思います」 併録された芥川也寸志の「弦楽器のためのトリプティーク」も熱演である。

さて、西本は現在イルミナートフィル芸術監督兼首席指揮者、日本フィル・ミュージックパートナーなどとして世界的に活躍している。中でも注目されるのは「ヴァチカン国際音楽祭」への出演だ。昨年、イルミナートフィルとアジア人の団体として初めてヴァチカン国際音楽祭に出演し、今年も2年続いて招聘された。

「昨年はベートーヴェンの『第9』を演奏しました。オーケストラ、合唱団も日本から連れて行きましたので大所帯のツアーでした。その時に提案したのが、日本の隠れキリシタンたちが歌い継いで来た『オラショ』を演奏したい、ということでした。日本の隠れキリシタンの存在はヴァチカンでも知られておらず、彼らがグレゴリオ聖歌を自分たちなりに歌い継いで、それがオラショとして知られている、いまだに存在しているということも知られていませんでした」

今年は10月にイタリアへ。サン・ピエトロ大聖堂のローマ教皇代理ミサの中で、そのオラショ(グレゴリオ聖歌)、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」などを演奏、サン・パオロ大聖堂ではヴェルディの「レクイエム」を演奏する予定だ。 「ヴェルディの『レクイエム』をアジア人に依頼するのは初めてのことです。私たちが、このヴェルディの大作を演奏するというのは、本当に光栄なことです」 このインタヴュー直後にはイルミナートバレエによる「白鳥の湖」公演(パルテノン多摩)も行われたが、オーケストラ、合唱団、そしてバレエ団と、イルミナートを冠する団体はますます活動を拡大している。今後も西本の活動から目が離せない。

世界のクラシック音楽の新しい魅力を導く多彩なパフォーマンスを披露します。