ロバート・グラスパー・エクスペリメントと西本智実指揮によるフルオーケストラの世界初となる共演がこの6月に実現! 自身初となるクラシックへの挑戦についてロバート・グラスパー氏と、指揮者の西本智実氏にそれぞれ語っていただきました。
才能が呼応する“異色”のコラボ
進化と拡張を続ける新世代ピアニスト、ロバート・グラスパー。彼のプロジェクト、ロバート・グラスパー・エクスペリメントと現代のクラシック音楽界の中心に立ち、世界で活躍する指揮者、西本智実の初共演が実現。ジャズをベースにヒップホップ、R&Bなど多彩なエレメントを自在に表現するグラスパーの革新的なサウンドが、西本智実が芸術監督を務めるイルミナートフィルハーモニーオーケストラと一体になった時、どんなマジックを起こしてくれるのか? エキサイティングな一夜の共演がやってくる。
「かねてから日本のクラシック・ミュージシャンと共演したいと思っていたので、今回のオファーは大変光栄に思っています」
そう語るのは、オランダで毎年開催されている「ノース・シー・ジャズ・フェスティヴァル」で、昨年メトロポール・オーケストラと共にステージに立ったロバート・グラスパー。彼のピアノとエクスペリメントのメンバーの巧みなプレイはオーケストラと見事に融合し、聴衆を興奮の渦に巻き込み、絶賛を浴びた。
「あの時のアレンジは指揮者であり、私の尊敬する編曲家でもあるヴィンス・メンドーサと一緒に行いました。メトロポール・オーケストラとの共演は初めてでしたが、彼らは素晴らしい演奏家たちで、グレイトな経験になりました」(ロバート・グラスパー)
パット・メセニー、ジョニ・ミッチェルなどに楽曲、アレンジメントを提供し、6度のグラミー賞受賞を誇る指揮者のヴィンス・メンドーサとのコラボレートは、グラスパーに新たな冒険心を呼び覚ましたに違いない。今回、日本で実現する一夜限りの共演も世界から注目を集めるのは必至。
そして西本智実は、「私もジャズが好きで、彼の素晴らしい才能に大変魅力を感じており、今回の共演はとてもうれしく思っています」とロバート・グラスパーとのステージを語る。
「彼が持つグルーヴや語法を大切にしながらも、クラシック曲を演奏する時は土台としてのクラシック音楽のフォームを創っておきたいですね。セッションでは、お互いの色合いがクロスオーヴァーするような世界になればと思っています(西本)
ジャズ・ミーツ・クラシック。過去にも多くの音楽家たちが様々な挑戦を重ねてきたが、ヒップホップやR&Bと共鳴したグラスパーの曲を、どのようなオーケストラ・アレンジとして聴かせてくれるのか、今回、最も気になるところ。
「オーケストレーションされた楽譜が届いてから実際的な私の仕事が始まるのですが、クラシックでは作曲家の作品に音を加えたり、アドリブを加えることはしません。ただ今回は、楽譜を見て、もしより効果的なオーケストレーション上のアプローチが可能ならそれも“あり”だと思っています。イルミナートフィルのメンバーが、既成概念を抜け出し、音楽の本質を体現させるようなステージになればと願っています」(西本)
グラスパー、モーツァルトに初挑戦
アドリブが身上のジャズと楽譜ありきのクラシック。今回の共演ではそれを超越する可能性を秘めている。グラスパーもアコースティック志向の“トリオ”と、ヒップホップ志向の強い“エクスペリメント”とでは、自身の役割を使い分けている。
「トリオで演奏する時はよりリーダーシップが求められるし、もちろんピアノにも集中しなければなりません。エクスペリメントの時はもっとグルーヴやヴァイヴを中心に考えています。今回は、私の“トリオ”のナンバーと“エクスペリメント”の『ブラック・レディオ』『ブラック・レディオ2』のナンバーを演奏する予定です」(ロバート・グラスパー)
そして、今回特筆したいのは、グラスパーにとって初のクラシックの楽曲への挑戦。モーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番 第2楽章」を世界初演として演奏する予定だ。
「クラシックの作曲家では、モーツァルト、ラヴェル、パウル・ヒンデミット、現代のピアニストではラン・ランが私のフェイヴァリットですが、今までクラシックの曲を演奏したことはないので、今回の挑戦は私も楽しみにしています」(ロバート・グラスパー)
数あるクラシックの名曲の中でも「ジャズのアドリブを入れるにはうってつけの曲」(西本)というナンバー。今回のコンサートの聴きどころになるのは間違いない。
「ロシア革命以降、ジャズはクラシックの作曲家たちに多大なる影響を及ぼし、ジャズの世界にもクラシックは様々な影響を与えてきました。ユダヤ系ロシア人のガーシュインもその一人です。異文化との“接ぎ木”によって新たな音楽や文化が生まれてきたことを思うと、今回はその素晴らしい機会になると思います」(西本)
クラシックとジャズの伝統と歴史に敬意を表しつつ、今までにない新しい試みに挑むことの重要性をこの共演は伝えてくれるはずだ。
「音楽をペインティングに例えるなら、そこには数えきれないくらいたくさんの色が存在します。オーケストラでは、それぞれのプレーヤーがキャンバスに個々の空間が与えられます。その結果、美しい絵が完成するのです」(ロバート・グラスパー)
ジャズ×クラシックのクロスオーヴァーで“美しい絵”が生まれる瞬間を、ぜひコンサートホールで確かめてほしい。
西本智実:写真 大木大輔