CONCERT / INTERVIEW

FUMIYA FUJII
「クラシックと出逢った日」
Fumiya Meets Classical Music.

 

昨年デビュー30周年、ソロ活動20周年を迎えた藤井フミヤが[billboard classics]とコラボレーション。この春に行われた初のフルオーケストラ公演が、9月にライブ・アルバムとしてリリースされます。ヴォーカリストとして新境地を開拓したフミヤさんがオーケストラと歌う醍醐味を語ってくれました。

 今回、フルオーケストラとのコラボ・コンサートのお話をいただいた時は、「ぜひやってみたい!」と即答でした。デビュー30周年という節目に初めて本格的にクラシックのフィールドに挑むのは、ヴォーカリストとしてのステップアップにつながるのはもちろん、個人的にも胸が高鳴る経験になるんじゃないかと。  

でも、リズム楽器が入らないのは、僕のようなポップ系のシンガーにはハードルが高いんです。まず、僕のレパートリーの中から今回のテーマにふさわしい曲を選んで、指揮者の大友直人さんを含めこのシリーズを担当している3人の方がアレンジしてくれたオケを聴きながら、一人でスタジオに入ってリハーサルを重ねました。車の中でも大声で歌いましたよ。つい興がのって、歌いながら熱海までドライヴしてしまったこともあります(笑)。  

 クラシックの殿堂・東京文化会館での初日、日本フィルとのゲネプロは今までにない緊張感を味わいましたね。何がいちばん大変だったと言えば、オーケストラの生の音を聴きながらリズムをとること。打楽器なんて5〜6メートル離れているし、ハープで始まる曲なんてハープをガン見ですよ(笑)。やはり、オーケストラの奥行きのある音の鳴りに慣れていないので、そうやって視覚でリズムをとったり、指揮者の手の動きを追ったり。総勢64名の奏でる音の渦の中に身を置きながら、あれほど孤独感を味わったことはなかったというくらい(笑)。

でもそこはジャンルは違っても同じミュージシャン同士。演奏者の方々には僕より若い人もいましたし、通じ合うものがあるんですね。 ライブ・アルバム『FUMIYA FUJII SYMPHONIC CONCERT』を収録したのは、ツアーの最終公演。緊張感は千秋楽まで続きました。コンサートの頭にオーケストラがオーヴァーチュアを演奏しているのを舞台の袖で見ていると、あの中にこれから自分が入っていくんだと思うとゾクゾクしましたね。ましてや指揮者の大友直人さんとは、その兵庫県立芸術文化センターでの公演が初お手合わせ。コンサート会場によってオーケストラも指揮者も変るということ自体未知の経験でしたが、オーケストラによってグルーヴが違うことも体感できました。  このツアーの間はさすがにお酒も煙草も控えました(笑)。やはり、いつもとは喉の使い方も違うし、声量もオペラ歌手とまではいかないけれど、ミュージカル・シンガーくらいは声を張らないとオーケストラとバランスがとれない。コンサートの二部で、アップテンポの曲も入れてミュージカル仕立てにしてみたのも新鮮だったと思います。僕の衣装も『レ・ミゼラブル』風に替えて、一部とは違うリラックスした雰囲気を演出してみたんです。

 ツアー前は、果たしてお客さんは盛り上がってくれるのだろうかという懸念も多少あったんですが、生で聴くオーケストラの迫力と僕のいつもとは違う歌を楽しんでいただけたようでホッとしました。今まで何度も聴いていた曲の魅力にあらためて気がついた、歌詞がすごく伝わってきたという声が多く寄せられたのも嬉しい反響でしたね。

 ヴォーカリストとしてフルオーケストラで歌う贅沢を味わえたことは僕の音楽人生にとって記念すべき貴重な経験になりました。クラシックは敷居が高いというイメージが僕自身にもありましたが、あの達成感と高揚感は30年歌い続けてきた中でも別格。普段の僕がスピードの速いモーターボートで走っているんだとしたら、オーケストラはタイタニック号のような豪華大型客船で優雅に大海原を航海しているような気持ちでした。  

30周年を迎えて、これで僕もギター一本の弾き語りからオーケストラまで歌えるヴォーカリストになったという感慨があります。50代で初めて未知の領域に踏み込んでみて再確認しました。声の続く限り、これからも歌で生きていくことを。

(Billboard Live News 2014年10月号 掲載記事)

世界のクラシック音楽の新しい魅力を導く多彩なパフォーマンスを披露します。